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町田市の水路、びゃく、文化財

公開日: 2025年6月22日

JR横浜線は、もともと生糸を八王子から横浜港へ運搬することを目的とした「横浜鉄道」という私鉄として1908 (明治41) 年に単線で開業した。1917 (大正6) 年に国有化、長津田~原町田駅間が複線化されたのは1979 (昭和54) 年。
次の写真は横浜線の南側、一見するとヤブに隠れてレンガ4層巻のアーチに要石がついた明治期の廃隧道のように見えるが

盛土に設けられた水路の南ポータル

人や車のためのトンネルではなく暗渠 (大嫌いなヘビが出そうな環境だったので接近しなかった)。
つくし野と南成瀬の間、現在は小川ガードという高架橋の下を市道が通じているが、昔は盛土 (築堤) だったことが60年代画像で分かる

南から北へ流れる小川の放水路であり、この上を盛土して谷を埋め線路を通したということになる。
古い鉄道に大築堤はめずらしくないが、町田市の明治時代の土木構造物でも最古の類だろうか?
次は地理院地図「自分で作る色別標高図」から、マーカーの位置が築堤下の水路。小川の集水域が浮かぶ

自分で作る色別標高図

小川は、鶴見川の大きな支流のひとつ恩田川に合流する。
地理院の基盤地図情報数値標高モデルDEM1Aで見ると、絵に描いたような盛土と切土と開渠

DEM1Aで見る成瀬の盛土

昭和期の複線化にともない盛土も拡張したのだろう、反対の北側は平凡な昭和のカルバート

水路の北側

銘板に施工業者など。複線化完了の5年前には水路の延長を終えていたということか

昭和期の改修銘板

現在の小川は別の暗渠が本流となっているようで、上記の古い築堤下の水路はほとんど実働していないように見える。

土木学会第49回年次学術講演会 (平成6年9月) に「都市中小河川の落差工・魚道の水音」があった。町田市内の恩田川における施工について

従来型の落差工は...改良型落差工から約 460 m 下流に位置し、河川勾配は 1 / 200 で、河川断面は平成3年度に 50 mm / hr 対応で改修され、基本流量は 140 m³ / sec である。
落差工の形式は、複断面型落差工で落差高は 1 m、落差工の落水勾配は 45° で前面が直線形状で施工され、魚道及び水褥池も設置されている。落差工の本体延長は 16,500 m、幅員 16,000 m である...
改良型の落差工は、左岸に公園、右岸に住宅街が立地している

落差工は、おそらく冒頭のマップ中にプロットした位置だと思うが、次の写真は従来型 (上掲の論稿のあとで改修された可能性もある)

従来型の落差工

そして約 460 m 上流の改良型落差工がおそらく次の写真のもの

改良型の落差工

水褥池 (すいじょくち) とは、落下する水のエネルギーを弱め河床の洗掘を防ぐことを目的として常時水が溜まるプールのことらしい。たしかに少し深くなっている。

今後の課題として多自然型河川構造物であることを念頭にして、減音効果の大きな落差工になるようさらに構造的な検討が必要

現代の改修河川は、防災はもとより落下する水の音をも低減するよう水理を計算されているのだなあ。都市では川のせせらぎさえ場合によっては騒音となってしまう、これは厄介。

鶴見川というと昔は汚ない川だと社会科で習った記憶があるが、少なくとも恩田川は濁りや汚れはないし悪臭もない。むしろ湧水起源でキレイかもしれない。いつかアユが魚道を遡上するかもしれない。

成瀬三ツ又という交差点がある。これは単に三叉路のことかと思っていたのだが、もともとは字 (あざ) のようだ。
恩田川の左支、三又川 (三ッ又堀) の上流域で現在の東玉川学園に「びゃく池」と「ヨシ (葦) 原」があったらしい (次のマーカーのところ)

三又川上流部の谷戸

宅地開発が進んだ現在では昔時を偲ぶものなど何もないが、すり鉢型の凹地は残っていた

東玉川学園1丁目付近

雨水調整池が唯一の痕跡か

東玉川学園1丁目付近の遊水地

「びゃく」は土砂崩れのこと。町田市はフラットな土地がほとんどなく谷戸を宅地造成したところが多い。
だが住むにはとても良い街だと思う。町田は よい まちだ (こういうベタなオヤジギャグは AI にマネできまい)

全国的にもめずらしいという天狗童子の道祖神が成瀬にある。右手にヤツデを、左手に錫杖を握っている

天狗の道祖神

道祖神のすぐそばにあるお地蔵様の台座には、頬杖をついた猿 (申) が

お地蔵様の台座には頬杖をついた猿

町田市内には他に山之根稲荷社と西山児童公園にも天狗の道祖神があるとのこと。いずれも江戸時代中期1700年代のもので、今年3月に町田市の登録有形民俗文化財に登録された。

成瀬台50年の歴史」成瀬台二丁目自治会
歴史的大規模土砂災害地点を歩く」コラム42
などを参照した。

昨年9月に「露頭と湧水とジオサイト」で滝の沢源流公園の湧水について触れたが、これも恩田川の源流のひとつ。下流では「遊水地の施工現場」も書いた。鶴見川幹川では「町田市小野路の宿場町とリニアなど」もどうぞ。