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国土地理院の地形図、八十里越

公開日: 2025年4月20日

インターネットのなかった時代は、紙の地形図を読むのに想像力が要求された。私も2万5千分1槍ヶ岳や穂高岳などに色鉛筆でいろいろ書き込んだものだ。そうしたアナログなプロセスを経験的に知っているのはオッサンの強みでもある

2万5000分の1地形図「原町田」から#1

美しさという点では RGB で見る WEB より紙の地形図に軍配があがると思う

2万5000分の1地形図「原町田」から#2

現在はデータから直接CTPで刷版だろうと思うが、昭和期の版下によるものよりヌケが良く繊細な印刷。たんに地形図というより「作品」といえるようなクオリティの高さがある (写真に撮ってもCMYKの質感を再現できないのだが)。

若い方々は「地図なんて Google Maps で充分じゃん」と思うかもしれないが、違う。そうじゃない。

精細な地形図を広く一般が手に入れることができる国ばかりではない。それを担保しているのは平和だと思う。地図は重要な軍事情報でもあるから、たとえば南米では軍の管轄下にある組織が地図製作や地理空間情報を所掌する国が多い (e.g., チリは陸軍、エクアドルやペルーは国防省の下部組織。あちらの市井で手に入る地図は大雑把なものばかりだった)。

日本だって敗戦までは陸軍参謀本部の外局だった陸地測量部がつかさどっていた。
Stanford University Libraries が戦前の日本の旧版地形図を所蔵しているのも、つまりそういうことだろうと思う。
現在では軍事衛星が遥か上空からなんでもかんでも丸裸にしているのだろうけれど。

なお国土地理院は国土交通省の特別の機関。その色別標高図や陰影起伏図は地形の理解に大きな助けとなり、現在は DEM 10 基調で一部 DEM 5 だが、DEM 1A によるタイル更新が待たれる。これらのデータに触れることができるのも恵まれたことだ。

国道289号は福島と新潟の県境区間にある八十里越がいわゆる点線国道、新たな道路が2026年秋から2027年夏に開通する見込みで事業中

事業化されたのは昭和61 (1986) 年度とのことなので、もう40年あまり。越後山脈のサグラダファミリアといったあんばい。
福島側の点線は明治27年のルートらしく、それより昔の (天保) 古道は沼の平を経由したようだ。江戸期や明治期の土木工事の痕跡が一部に残っているらしいが、昭和期にはもはや地元の人もほとんど通行しなくなったとのこと。

三条市の五十嵐川 (いからしがわ) は信濃川水系、只見町の叶津川 (かのうづがわ) は阿賀野川水系。分水界を仮称9号トンネルで過ぎることになるが、縦断図を見ると 2.9 % の片勾配で福島側坑口付近が標高約 650 m で最高地点になる。
なお旧道の最高地点は鞍掛峠で標高 965 m (新潟県)。

大林組が下部工を担った仮称5号橋梁のP2橋脚は高さが 81 m だそうで、上から谷底を見下ろしたら尿道が開きそうだ (失礼)

秘境ゆえ開通を楽しみにしている人は多いだろう。国交省北陸地整長岡国道事務所 で進捗が報告されているが、事業区間延長 20.8 km のうち上記 Polyline の区間が約 17.4 km、10の橋梁と11のトンネル、10のロック・スノーシェッドが施工されている (入叶津地区だけ完成が遅れるようだ)。
国道252号六十里越の代替にもなるが、八十里越も土砂災害や雪崩のリスクは当然ある。JR只見線もたびたび不通になる。
衛星画像で見ると叶津川右支の沢が道路の下をくぐらずロックシェッド上を跨がせているらしき工事箇所もある。谷の出口は危険ということかな? 九州新幹線筑紫トンネル北坑口と梶原川の交差箇所のような感じだと思う。

浅草岳と守門岳は古い第四紀火山とのこと。叶津川流域も破間川 (あぶるまがわ) 上流域も地すべり地形だらけ。沼の平はすべり過ぎて叶津川の河道を閉塞したのだろう、谷底幅が異常 (←そんなことに気を取られる奴が異常)

数値標高モデル DEM 1A を見ると、田代平は点線国道の上に地形図には記載されていない高巻きのパスもあるようだ。立派な滑落崖
(GeoTIFF ではなく PNG を変換して JPG 54KB に軽量化したので少し粗いが、このレベルの色別標高図が待ち遠しい)

国土地理院数値標高モデルDEM1Aから

なお昭和初期の参謀本部5万図「守門岳」(Stanford) には描かれていた八十里越旧道の水準点が、現在は田代平から吉ヶ平にかけ消えている。雪崩などの要因により亡失したのか、あるいは保守を放棄されたのだろうか?

大局的に見たら、八十里越は要害山に始まり要害山で終わるのだなぁ (これからは磐越同舟)
冠山峠道路が開通して岐阜と福井に経済効果をもたらしたように、新たな八十里越が三条市と只見町に良い影響を及ぼすと思う。
通行不能となっている現在の点線 (19.1km) は新道が開通したら消える可能性が高いと思うのでトレースを残しておく。