長野県大町市に「沓掛」という地名がある。小谷村の栂池高原スキー場の近くにも「沓掛」という地名がある。
この「くつかけ」という響きと風情、字づらの美しさ。大学生の頃の私は、ずいぶんと感じ入った記憶がある。ぜひ明朝体で書きたい
由来・語源を調べると
旅人などが、道中の無事を祈願して道祖神、庚申、山の神などに草鞋や馬沓の類を掛けて手向けること。また、その掛けたもの(精選版日本国語大辞典)
山伏には「山入り」の際に麓で新しい草鞋にはきかえ、山での草鞋は杖にかけて大事に持ち帰る風習があり、峠などに多い沓掛という地名は、俗界と聖界の境と考えられる所になっている場合がある(世界大百科事典)
坂道にさしかかったところで旅の履き物をあたらしく履き替え、古い沓を山の神にそなえて旅の安全を祈る、という意味があります。「そろそろ履き物を替えた方がいいよ」という教えが、屈掛というちょっとユーモラスな願掛けの風習として全国に広まり、人々に安全な旅を伝えてきたのでしょう(お茶街道)
もっとも有名であろう長野県軽井沢町の「沓掛」は、1960年(昭和35年)3月「大字長倉中軽井沢区」に改称され、地名として残っていない(もったいない)。次は5万分の1地形図「軽井沢」(昭和12年陸地測量部、Stanford Digital Repository)の一部
静岡市清水区の薩垂峠には「沓掛明神」が祀られているそうだ。
各地のおもな「沓掛」を、マップにプロットしてみる。
上記のほかにも、また、消えた「沓掛」も、あろうと思う。「沓掛山」や「沓掛川」という名が残っているところもある。
地名の由来は、文字から導き出すことは難しい。これは、地名の本体は話し言葉(発音)だという理由からである。これが地名を考えるうえで最も重要なことである。この点について、膨大な『大日本地名辞書』を完成させた地名研究の先覚者である吉田東伍は、その「汎論」の中で「地名称呼の変転は専(もっぱら)音声の条理に因る」と地名研究においての音声の位置づけをしたほか、柳田國男等も発音が基本であることを述べている...
地名の成立を考えると、地名は極めて土俗的・庶民的だ
~『地名を通して見る天竜川と人々の暮らし』(松崎岩夫著、国土交通省中部地方整備局天竜川上流工事事務所)
安曇野市の「豊科」(とよしな)は、合併した四村の名の頭を合わせた(鳥羽・吉野・新田・成相)。 南木曽町の「読書」(よみかき)もまた、与川・三留野(みどの)・柿其(かきぞれ)の頭文字を取ったという。知らなかった。