江ノ電の腰越駅と鎌倉高校前駅の間、線路わき。砂岩層とシルト層が交互に重なっている。約500万年~300万年前頃の海底に堆積した地層で三浦層群池子層とのこと。次の写真の左奥、小動岬にも同様の露頭が見える
この露頭のすぐ東にある踏切を渡ると急勾配で狭い坂道がある
黒澤明の名作映画『天国と地獄』の主な舞台は横浜の南太田や浅間町だが、刑事 (仲代達矢、石山健二郎、木村功ら) が犯人 (山﨑努) を追い詰めていく場面で、黒塗りのクラウンがこの坂を登るシーンがある。
その上部は強烈に切られている
この映画を見たことのある人なら上のふたつの写真がどのシーンか分かると思う。この海食崖の上の高台で犯人は逮捕される。
現在この地域の海食崖や切土は法枠工やモルタルが施されているが、1963年公開のこの映画の中では露頭で一部は今も露出したまま
『天国と地獄』の英題は High and Low だが、大岡川か帷子川の低地に暮らす Low の竹内銀次郎 (山﨑努) は、丘の上の豪邸に住む High の権藤金吾 (三船敏郎) への憎悪を募らせ犯行に及ぶ。
横浜と鎌倉の (海進) 海食崖による高低の差は、作品のモチーフとして、また舞台としてうってつけ。上から下または下から上のカメラアングルが多く、鎌倉へ捜査に向かう局面は地理の推理映画だ。
参考までに『天国と地獄』の予告編。ラストの山﨑努の壮絶な演技よ
DVDやサブスクで2,000円程度で観ることができると思う。
明治20年測図昭和14年修正2万5千図「江ノ島」Stanford Digital Repository から。
当時は露頭の前を道路と鉄道線が同一平面を共用していたようだ。腰越漁港は戦後に整備されたもの
江ノ電で唯一のトンネル極楽洞は1907 (明治40) 年の竣工、延長 209 m で履工はレンガ。極楽寺駅のすぐそば、次は桜橋から。
1923年の関東地震で両坑口とも土砂崩れのため埋没、次の藤沢側の西坑口は側壁に縦横の亀裂を生じ十数個のレンガが剥落したとのこと (大正十二年関東大地震震害調査報告、p.396)
トンネル内に頂点がある拝み勾配だろう、奥は東坑口からの光をレールが反射している。そのクレストは江ノ電の最高地点になるはず。
このトンネルも『天国と地獄』で出てくる。なおトンネルだけでなく江ノ島電鉄線はまるごと土木遺産
次は龍口前交差点、併用軌道区間に普通鉄道としては国内最小の半径 28 m 曲線。車両もホイールベースは小さくせざるをえないのだな
さらに手広地区の池子層。シルト層は指先でなぞるとサラサラ。黒っぽいのはスコリア混じりだろうか、まだ勉強不足でよく分からない。
1 メートル近くズレているなぁ
現地では分かりにくいが古道の谷戸坂切通が藪に隠れている (通行不可、フェンスの隙間から撮影)。外来種のリスも隠れていた
1957年に開削された県道304号腰越大船線を挟んで連続している。切りまくり (鎌倉だけに)
鎌倉の地層は「横須賀市観音崎の地質など」で見た池子層と基本的には同じと考えて良いのかなあ?
なお鎌倉から至近の江の島は大部分が葉山層群大山層ということで、異質らしい。神奈川県温泉地学研究所 によると「葉山層群は約1500万年前の地層で、三浦層群に比べて固結して」いるそうだ。
余談。
今年は出生数が70万人を切りそうだ。危機的だが、子どもを持たない大人が増えることも同時に危ういと思う。
子どもがいない中高年の中には、未来の世代や社会に対して無責任かつ無関心で「自分さえ良ければ」という人物も少なくない。そういった利己と独善が漸増していく状況は良くない (子どもがいても唯我独尊な人はいるけれども)。
さらに日本が High or Low の社会になっていくとしたら、それもまた良くないと思う。