地図蔵 ▷ 2012年までの記事「自己防衛」

自己防衛

(2003年11月30日)

★ 今回はちと難しいです。
★ コロンビアで日本人駐在員が殺害され、さらに11月30日、イラクで日本人(外務省職員)2名が殺害されました。ついに、日本はテロリストの標的となってしまいました。仕方がない、では済まされない。
★ いざ有事が起こったらどうするか? もし万が一、チリで巨大地震や、大規模騒擾が発生したらどうなるか? 在留邦人はどうなるか? 現在のチリで、大規模騒擾の可能性は極めて低いでしょうが、巨大地震の可能性は否定できません。
★ 日本政府がやれることは、救出のための輸送機の派遣です。自衛隊法第100条の8(在外邦人等の輸送)で、外務大臣から防衛庁長官に依頼があった場合に、自衛隊機を飛ばすという規定があります。97年にカンボジアで武力衝突が発生したとき、98年インドネシアで暴動が発生したときに、それぞれC-130H輸送機を飛ばしています(いずれも移動にとどまった)。
★ 「邦人」は「日本国のパスポート所有者、日本国籍をもつ者」と政府解釈。しかしチリ在留邦人1000人以上を運ぶのは飛行機のキャパシティからして容易でない。首相などがよく乗っている日の丸の政府専用機は、羽田ではなく千歳にいて(航空自衛隊の特別航空輸送隊・第701飛行隊。アテンドする女性も含め乗員は当然全員が自衛官)、2機しかありません(ボーイング747-400改。国際法上は軍用機)。あとはC-130Hなどの輸送機か、民間機をチャーターしないといけない。
★ くわえて距離的な問題があります。まず船舶は無理。日本からチリまで、どうやったって30時間近くは必要になりますから、東南アジアとはわけが違う。しかも上記の規定は、「外務大臣は、現地公館長からの報告、他国航空機の運航状況、これらを踏まえて派遣先国の空港、飛行経路の安全について判断を行い」現地で航空機の安全が確保されていることを条件とします(平成5年衆・安)。おまけに日本は、有事に際しての初動が実に遅い。
★ すると、三々五々自己責任でブラジルやアルゼンチン、米国へ逃げてください、ということになるのでしょうか? やはり対処マニュアルが必要で、きちんと周知すべきではないでしょうか。
★ 一方、日本政府は、イラクへの自衛隊派兵について喧々諤々、出すか出さないかで揉めています。が、実働せざるを得ない状態にあります。
★ 自衛官は命を賭して赴任することになります。が、後ろ盾は実に心もとない。銃撃された場合に、どうするのか。応戦して発砲する、やられる前にやる、というのが武器の使用規準(国際慣習)として当然ではありますが、日本人の場合、その発砲で敵を殺したらどうなるか? ましてや先制攻撃となれば日本国内では問題となるでしょう。
★ 『イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法』(イラク特措法)では、第17条で武器の使用について次のように規定します。「生命又は身体を防衛するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができる」「武器の使用に際しては、刑法第36条又は第37条の規定に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない」。
★ 米国同時多発テロ事件の後は「テロ特措法」が公布されました。この法でも、武器使用は同じ条件でのみ可能です。いずれも場当たり的な、その場しのぎの時限立法です。「周辺事態法」にしても、先立って制定されているPKO法を下敷きにしたもので、文言はほぼ同じ。
★ そもそもこの武器使用規定は、警察官職務執行法第7条を下敷きにしていますが、この法も刑法第36条(正当防衛)又は第37条(緊急避難)が根本原則となって、縛りをかけている。
★ しかし、刑事・警察行為と、軍事・戦闘行為とでは、同じ「発砲」でも本質がまったく異なるのではないでしょうか? 警察官と自衛官の職務・任務はまったく異質であるのに、発砲にあたり法的な根拠を同一としているのは、少しおかしいと思います。
★ 個人的な意見としては(右とか左とかいう次元ではなく)、国際慣習に沿った、より現実的な邦人保護の法規や、自衛権運用の恒久法がやはり必要だと思います。在外邦人に危険が迫ったときに、政府・外務省は保護する責任があります。またテロリストなどに対して銃を撃てないことが結果として日本人の死を座視するようなことになるとすれば、これはやはりおかしい。個別的自衛権はあるが集団的自衛権はダメだとか、戦略戦争は放棄するが自衛の戦力は持つというねじれた拡大解釈の論理は、整理すべきではないか、と愚考する次第です(私はノンポリですけど)。